私は小さな町工場を経営していて、バブル時代はそこそこにおいしい思いもしました。
家族と社員であちこちの温泉も回りましたし、有馬温泉でも高級旅館に皆で泊まったりしましたからね。
しかし長引く不況で社員も全員解雇、家内と二人で細々と機械を回すようになって、
とても旅行にいく余裕なんてなくなって久しかったんです。
ある晩、家内が突然「温泉に行きたい」と言い出しましてね、
そんな余裕がどこにあるんだといったら、かんぽの宿の資料を持ってきて、
ここだったら安いから頑張れば泊まれるとある宿を示したんです。
なるほど安いプランでならなんとかなりそうです。何年ぶりだったでしょう、
夫婦で温泉なんて。温泉からあがって部屋で涼んでいると、
家内がボソリと「頑張ってればまたいいことあるから」って。
思わず涙が出ましたね。「うん、頑張ろう」と約束しましたよ。